Sea of Tranquility

しずかのうみ

朗読者

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

ちょっと加筆。

新潟の「温泉が湧いててフレンチや和食も食べられるワイナリー」の図書室で読みました。宿泊もできるので、オーベルジュ的な位置づけなのかも。そういう施設なので、図書室にはワイン関係のムックやフランス料理の写真集が多かったんですが、一冊だけこの小説が、文庫本で置いてありました。読みやすそうな厚さだったので、滞在中に読み終わると踏んで読書開始。

15歳の少年ミヒャエルが30代の女性ハンナとふとしたことから知り合って、ちょうど彼が年齢的に持っていた、性に対する興味を彼女が満たしてくれたことをきっかけに短い恋愛期間を過ごすところから始まるお話です。 しかしこの小説の本領は、ハンナが突然失踪し、取り残されたミヒャエルが大学生になり、法律を専攻する第二部からだと思います。意外な場所でハンナと再会したミヒャエルは、この小説の舞台となった1960年代のドイツにまだ色濃く影を落とすナチスの影響と一人で戦うことになるわけですが… 以下ネタバレ。読んだ直後に書いたメモの引用からの加筆なので文体が砕けてますが。

ミヒャエルの一人称だから、ハンナの本音はよくわからないまま終わる。自殺の動機だって本当のところは誰にもわからない。自分だったらどうするかなんて想像するのもハードルが高いけど、そこまで重くない罪で投獄されて、出た後の保証もないのに恩赦されて、嬉しいかなあ。元彼にいろいろ世話してもらったら素直に受けるかなあ。気概を捨てる前の彼女なら受けて立ったのかもしれない。ミヒャエルが手紙を書かない気持ちは、「関わりたい反面一線も引きたい」という程度のものだったのだろうか。せっかく覚えた字で書いた手紙に返事が欲しいのに、返ってくるのは朗読のテープばかりだったら確かに虚しいけど、それだけで死を選ぶだろうか?ハンナはそんなにもミヒャエルのことが好きだったのかな。環境と状況と時間がそうさせたのかもしれないけど、お互いに少し素直になっていれば、命に関わる事態にまでは発展しなかったのにな。でもそれじゃドラマにならなかったのかも。

他ブログの書評でも偶に触れられていますが、ハンナの死後ミヒャエルがとった行動も確かに疑問でした。 個人的には「死ぬほど好きな相手ならいきなり死なないでちゃんと自分の気持ちを伝えよう」という教訓を得たかな?(笑)

ミヒャエルのお父さんの発言が印象的でした。

でもわたしは大人たちに対しても、他人がよいと思うことを自分自身がよいと思うことより上位に置くべき理由はまったく認めないね

この台詞原語でなんて表現するのか知りたくて、わざわざドイツ語版も買ってしまいました。 原語では

Aber bei Erwachsenen sehe ich schlechterdings keinerlei Rechtfertigung dafür, das, was ein anderer für sie für gut hält, über das zu setzen, was sie selbst für sich für gut halten.

お父さんいいこと言うなぁ。