Sea of Tranquility

しずかのうみ

幼年期の終り

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))

幼年期の終り」読了。 幼年期どころか地球が終わっていた。

クラークの想像力とそれを裏付ける見識と説得力のある描写が素晴らしい。彼の予想のうちいくつかは現実に起きているようにも思える。 「2001年宇宙の旅」もこんな話だったら、そりゃあ映像化したくなるだろうな。でも目に見えるものにしようとしたら、途端に陳腐なCGに成り下がりそうだ。特に質感や空気感は想像の翼の上でしか再現できない気がする。 そして「最後の人間」が聴くのはやっぱり、バッハなんだなぁ。

クラークが本当に書きたかったのは第三部だったのかもしれないけど、第一部のファーストコンタクトっぷりも見事だった。ここでまるでミステリのように、カレルレンの正体や目的を知ろうとした読者は、その後いい意味で裏切られる。もっとも本当に裏切られた気分になって、読後感に納得できない人たちも多いのかもしれない。私もそうなりかけたけど、そんな迷いを圧倒する結末だった。

印象的だったフレーズを引用してみます。

「人類は、望みとあれば好きなだけ殺し合うがいい」彼の通達はこういっていた。「それは人類と人類自身の法律とのあいだの問題だ。しかしもし人間が、食用かあるいは自衛以外の目的で、人間と世界を分かち合っている動物を殺した場合は──そのときは人間はわたしに対して責任を負うのだ」

この間読んだ「重力ピエロ」でもこんなこと言ってた人がいたような。

科学はすべてを説明できると考えられていた。その領域にいれられない力は一つとしてなかったし、最終的にそれで説明できないことも一つもなかった。宇宙の起原については、あるいは永久にわからなかったかもしれないが、それ以後に起こったことは、すべて物理法則にしたがっていると考えられた。

だがしかし、そうでもなかった、というのがこの小説の背景。普通に生きていたら想像もしないような異世界を構築して物語にしてしまったところがクラークのすごさなのかな。福島正実の翻訳もいい意味で生硬でよかったんですが、やはり原文ありきだったんだと思います。これの原文を読んで理解する自信ないもん。 けっこう手放しで褒めちゃいましたが、「読んで損した」というレビューがあることも事実だし、クラークの大風呂敷をどこまで評価できるかが分かれ道なのかもしれません。