Sea of Tranquility

しずかのうみ

ハーモニー

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

幼年期の終り」の読後、Kindleさんから薦められたので読んでみたら面白かった!一日で一気に読んでしまいました。 心理学徒は読むといいかも~。私のようなニワカも一応報酬系についてはある程度勉強したのですが、その先のずいぶん遠いところまで持っていったなぁ、というのが素直な驚きでした。この研究はかなり面白そうですが、本当にやってみる人はいるのだろうか…。単なる「SF的アイデアを小説という形態に落とし込んだ」ものにとどまらず、作者が日常生活の中で感じて、思って、考えていたことを巧みに二人の少女に語らせることができていたと感じます。

人類が行き着く少し先の未来の構築にも説得力があり、嘘八百の世界なのにうまく騙されて浸ってしまうというのが何より気分いいですね。細かい描写や説明が(それが未来の世界特有の物ではなく現存しているものであっても)手を抜かずに詳細に書かれていたからかな、と思いました。 恒常的体内監視システムがオフラインになる紛争地帯での、なんてことない日常描写(普通に、管理されていないものを食べたり、売られてたり、他人の個人情報が読み取れなくなってたり)に安堵してしまうのも、「未来の日常」の描写がリアルであるという証左かも。

カテゴリ分けには意味などないとわかっていますが、このタイミングで薦められただけのことはあり、系列としては「幼年期の終り」同様「偉い人から押しつけられた一見ユートピアのようなディストピアもの」という印象です。 そして用いる文法はサイバーパンク。 新しい作品なのに、サイバーパンク経由になっているとなんだか懐かしく感じます。 最近の流行なのか(伊坂幸太郎作品にも見受けられたので)、私も知ってるあんな作品やこんな作品からの引用がこっそり仕込んであってうふふ、と思いながら読みました。 同じ作者の「虐殺器官」と世界観を共有していて、時間軸は後の世界のお話です。 時系列で読むなら「虐殺器官」からだと思うのですが、先に入手していたこちらから読んでみました。この後「虐殺器官」を読むとして、時代を逆行した時にどんな世界が見えるのかちょっと楽しみです。