Sea of Tranquility

しずかのうみ

動きの悪魔

動きの悪魔

動きの悪魔

ポーランドのポー、ポーランドラヴクラフトとの異名をとる作家ステファン・グラビンスキによる鉄道恐怖小説短編集12編。 ポーランドが舞台ですが、出てくる駅名は架空のものが多いです。設定上、別の作品に登場する駅名が引用されたりすることもあるため、コアなファンはグラビンスキが作った仮想の路線をちゃんと図に表したりしているとかいないとか。 蒸気機関車が客車を引っぱって走る時代の鉄道事情も興味深いのですが(転轍機とかもう人力で操作しないですよね)駅の雰囲気なんかは今とあまり変わらないと思えるところもあり、ヨーロッパの鉄道は古きよき時代を踏襲しているなあと思うことしきりでした。とはいえ私は東欧には行ったことがないので、行くとまた違う印象を持つのかもしれませんが。 鉄道と恐怖小説というのがどうリンクするのか大変興味深く読み始めましたが、だいたいジャンルとしては

  • ありえない動きをする機関車

  • ありえない行動をする鉄道職員または旅客

  • ありえない環境にある駅舎や線路

に大別されておりました。ざっくりですが。 しかしどれも結局は、鉄道や列車に思い入れる人の複雑な心理が作り出す幻想と怪奇であり、時代や国を越えて「わかる」「あるある」と思えるからこそ、現代の日本に暮らす私たちが読んでもしみじみ怖く哀しい作品でした。そう。恐怖小説なので怖いはずなのですが、どの作品もどこか哀しい。 真面目に鉄道に従事する人たちも、それぞれの動機や思いを持って乗る旅客たちも、「わーいでんしゃだー(あっ、真の意味での電車は一回しか出てこなかったけど)」って楽しそうにしていながらも、哀しい結末に巻き込まれていく、そんな短編集でした。 秋の夜長におすすめです。 どうにでも訳せたのかもしれませんが、あえて古めかしい日本語表現を多用した翻訳も秀逸でした。