Sea of Tranquility

しずかのうみ

クローネンバーグのデッドゾーン

デッドゾーン デラックス版 [DVD]

デッドゾーン デラックス版 [DVD]

伊坂幸太郎の「PK」を読んで再見したくなったので(読了してからはだいぶ経つのですが)家にあったはずのDVDを発掘してきて久しぶりに再生してみました。

なんで監督の名前が前についてるんだー!とお思いでしょうがなぜかこういう邦題だったことがあるんですよバンバン! でも映画の原題自体は「スティーヴン・キングデッドゾーン」になってたりするのでよくわかりませんね。

…で、初見時も、その後何回か見返した時もそれなりに感動した記憶があるのですが、今見たらなんだかアレ?という場面が散見されました。悲劇の主人公ジョニー・スミス(わざとだと思いますが平凡な名前ですよね)が怪しいカリスマ透視能力者になり、最後は暗殺未遂犯として狙撃されるまでの流れで、クリストファー・ウォーケンの佇まい自体まで変わっていくことは高く評価できます。最初はただの高校の先生だったのが、いつの間にか「黙って触ればピタリと当てる」人になっちゃうわけですが、その変容ぶりにはすごい説得力があるんです。顔つきまで変わったように見えるくらい。でもですよ。彼の表向きの苦悩はよく描かれているんですけど、内面がよくわからないまま話は進みます。原作者のスティーヴン・キングは、「ジョニーが見ているものが本当に真実かどうかは見ているジョニーにもわからなくて、でも見てしまった以上そのままにはしておけなくて」という葛藤を描いていた的な話を読んだこともあったんですが、そして原作には確かにそれらしい描写もあるんですが、映画にはあんまりそれがなくて、「俺が見たんだから確かにあるんだよ」という独善的な方向に突っ走ってしまう。 まあそれもクローネンバーグの狙いだったのかもしれませんが、ジョニーに感情移入できないと映画として成立しないんでちょっとね。

元カノと再会して焼け木杭に火がついたりもするんですが、「自分はこんなこと(怪しい透視能力者)してていいんだろうか」と葛藤しつつも元カノの存在を無視できないジョニーも、家庭があるのに気軽にジョニーに会いに来ちゃう元カノも、なんだかなあって思ってしまいました。いや、そういう映画ならいいんですけど、そうじゃないでしょ、と。 一番違和感だったのは、キャッスルロックの連続殺人犯を暴き出すところだったかなあ。あのエピソードはただでさえ後味が最悪なんだから演出にもう少し頑張って欲しかった。「もう俺見えちゃったから。こいつが犯人だから」みたいなんじゃなくて。うーん。

でも、ジョニーが最後の最後の決断をするにあたって、彼を支えてきた神経科医(ユダヤ系)に「ヒトラーが生きていた頃のドイツにタイムスリップして彼を殺すチャンスがあったらどうするか」と尋ねるシーンは、医師自体の出自のエピソードがその前段階で丁寧に描かれていたこともあって、よかったんだけどな。 総評としてはいい映画だし、やっぱり私は好きですけどね。

家にあったはずの原作も、数度の引っ越しのどさくさでどっかいっちゃってますので、そのうち再読しなくては。まあその前に「シャイニング」でも読むかな…