Sea of Tranquility

しずかのうみ

モーセと一神教

 ワークショップに参加するつもりで読んだのですが、私はフロイトという人についても(一応ウィーンのフロイト博物館には行ったことがあるけど)ユダヤ教についても旧約聖書についてもよくわかっていないので、これは単なるお客さんになって終わりそうだと思い、ワークショップの方は断念しました。

モーセと一神教 (ちくま学芸文庫)

モーセと一神教 (ちくま学芸文庫)

 

 一番難しいのが、ユダヤ教の理解だと思います。読みながら途中何度もユダヤ教について調べました。過越とかハヌカーとか、アメリカでもお祝いするのでそういう祝祭日があることくらいは知っていたし、短大がミッション系だったので宗教学の時間にシスターが丁寧に教えてくださった旧約聖書のことはおぼろげに覚えていますが、その後当然ながらキリスト教にシフトしてしまったのでユダヤ教のことはほとんどわかっていませんでした。

この本は一貫して、フロイトが、ユダヤ教の成り立ちにも大きく関係するモーセの出自をエジプト人だったであろうと考察することの根拠と、それによってユダヤ人としての自分の立場が危うくなっていくところを描写しています。「こんなこと書いちゃって本当にいいのかな」とフロイト自身も恐る恐る書いていたことが、文脈からも推察できます。

私が読むとすると、やはり宗教学的関心や、史学的興味が主になるのかなぁと思いました。フロイトらしく精神分析手法を駆使した部分も出てきますが、そこを心理学・精神医学的に読むという感じではありません。

歴史の勉強をもっと進めて、宗教についてもう少し理解してから再読したいかも。だからワークショップのタイトルも「再読」になってるのかな。掘り下げたら相当面白い題材ではあると思いますが、難しいでしょうね。

フロイトさんは J.H.ブレステッド という考古学者(オリエント学専門)の本を参考にされたようでよく出てきます。むしろこっちが読みたくなっちゃいました。しかし個人では入手困難っぽい。うちの大学でも研究室棟や外部書庫にしかないし、そもそも刊行年が1938年とかです。翻訳でなければまだ読めそうですが(物理的には)、読めそうにありません(語学力的に)。

ひょっとしたら、人間というものは、単純に、より困難であることをより高きことと解するのかもしれず、人間の誇りとは、困難を克服したという意識によって亢進させられたナルシシズムに過ぎないのかもしれない。

 余談ですが、フロイト博物館は「フロイトが世界中を旅行した時に書いたハガキ」などのほのぼの系の展示もあって、人間フロイトに近づける感じがよかったです。研究内容はどこでも読めますしね。ミュージアムショップでは英語ドイツ語で書かれた著書やガイドブックも入手できたんですが、個人的には「そこまでしなくていっか」と思い、買ってきませんでした。この本の原書もあったかもしれないのにもったいないことをした。