Sea of Tranquility

しずかのうみ

Hidden Figures

現時点で邦題変更中のため日本版公式サイトにアクセスできません。旧邦題は「ドリーム 私たちのアポロ計画」。新邦題は「ドリーム」になるそうです。

www.itmedia.co.jp

映画はアポロ計画より2年先行して始まったマーキュリー計画と、それに携わった3人の黒人女性の活躍を描いています。配給会社(20世紀FOX)は、マーキュリー計画アポロ計画と比べて知名度が低く、観客が動員できない、ドキュメンタリーではないのでそこまで厳密にしなくていい、として邦題に無理やりアポロ計画を入れたとのことですが、愚かですね。観客をバカにしすぎ。担当者は『ライト・スタッフ』を観ていないんでしょうか。あれも今の日本で公開されたらアポロ計画の話にされていたのか?アポロ計画の話だと思って観たらアポロのアの字も出てこなかった、というクレームは予測していなかったんでしょうか。

結局「史実と違う」というツッコミを多方から受けて改題の運びとなりました。日本公開は9月末の予定になっています。


Hidden Figures | Official Trailer [HD] | 20th Century FOX

 

…とまあ曰くつきになってしまった映画なのですが、ある意味話題にはなったからいいのかな。一足お先に観ました。これは良作。おすすめですよ〜。

1960年代のアメリカは、憲法上性別や人種によって人を差別してはならないことにはなっていましたが、日常生活で運用されていたのは州法。この映画の舞台であるヴァージニア州は人種分離を州法で定めており、バスの座席も、通う学校も、使うトイレですら白人とそれ以外に分けられていました。それでもNASAでは有色人種、しかも女性を職員として正式に雇用していたので、それなりに先進的ではあったんですよね。この当時、日本にはまだNASDAすらなかったんですから。(設立年からすると、ギリギリあったかもしれないけど女性研究者はいなかっただろうなぁ。こういうのちょっと調べてみたいですね。)(ソースがWikiなのでアレなんですが(というエクスキューズの多いこのブログ…)話を盛り上げるために多少エピソードは盛られているそうです。)

主人公の一人、キャサリンは小学生の頃からすでに数学の才能を見せはじめていて、教師から強く勧められて飛び級で高校の授業を受けていました。

その時に先生から「黒板に書いた問題を解いて」と言われて渡されたチョークが、彼女のその後の研究者人生を象徴しています。

解析幾何学で誰よりも速く正確に結果を出せるようになっても「計算係」としか扱われなかったキャサリンが、黙々と結果を出し続けて周囲に認められていくのがメインのエピソード。

もう一人はドロシー。彼女は黒人女性ばかりの計算グループを実質統括していたにもかかわらず、(劇中では)就業規則に縛られて昇進が叶わずにいました。しかし誰も顧みなかった小さなチャンスを漏らさずゲットして、最後にはプログラマーとして望みを叶えます。ドロシーがゲットしたチャンスは、IBMメインフレームIBMのサイトではこの映画が紹介されています。

www.ibm.com

劇中でのIBM7090は図体ばかりでかくて使えない困ったちゃんとして登場するんですけどね。

そしてメアリー。人種と性別の壁によってエンジニアとして正規の資格を得られなかったけど、理解ある上司と家族に支えられて、持ち前のガッツで見事エンジニアに。

NASA公式サイトでは、"Modern Figures"というタイトルでこの映画をフィーチャーした特設ページが公開されています。

www.nasa.gov

映画の中で、白人の皆さんは全く悪気なく、慣習や州法に守られて平然と有色人種を差別するんですが、現代の、割と多様性が認められはじめた時代で、差別の歴史を体感していない若い世代が、登場人物の言動をどう見たのかは興味があります。とはいえアメリカ国内では未だに人種分離が行われていて、白人しか通えない学校があったりするようなので、根深いですねぇ…。

個人的には、フィートやマイルなどというふざけた単位で計算したのに有人宇宙飛行を何度も成功させたアメリカすげー(褒めてません)と思ってしまいました。私の今の仕事でも使わされているんですが…Imperial and US customary measurement systems…いわゆるヤード・ポンド法…アメリカナイズされることがかっこいいと思ってしまっていた子供の頃の自分を殴りたいです。

そして、ヤード・ポンド法で正確な計算結果を出しまくるキャサリンは、本当にすごいです。もっともNASAでは1990年代にもなって、メートル法との換算ミスで火星探査機を失ったりしてますけどね。

ヤード・ポンド法はさかのぼるとカロリング朝までいくそうなので、歴史の好きな方はさかのぼってみてはいかがでしょうか。

 

AAL B772 機内エンタテイメントシステムで鑑賞