Sea of Tranquility

しずかのうみ

未來のイヴ

 仏文のレポートに使いました。もうレポートも返ってきたし試験も終わったので書評解禁?

ヴィリエ・ド・リラダン全集 第2巻

ヴィリエ・ド・リラダン全集 第2巻

 

 ごく短めのレポートの題材としては大作すぎて、全くまとめきれず、芳しくない講評をいただきましたが、それはそれです。フランス文学なんてまともに読んだことのなかった私が、一連のレポート執筆作業ですっかりフランス文学大好きになってしまいました。

ヴィリエ・ド・リラダンは19世紀フランスの、象徴主義の作家です。若い頃ボードレールに可愛がられて、エドガー・アラン・ポーなんかを読まされて幻想小説を書くようになりました。ヴィリエの特徴は、言いっぱなし、書きっぱなしなところです。結末に至るまでの説明や描写はもうこれでもかっていうくらい細かくしつこく書き込むのに、最後は「はい終わりー」ってあっさり終わることが割と多いです。幻想小説群としては、ポーっぽい暗くて重くてちょっと怖い系から、SF小説の走りみたいな機械系の作品までいろいろあります。私も全部は読みきれていませんが、一部の人たちからはものすごく評価されているようです。ユイスマンスとか、マラルメとか、押井守とか、伊藤計劃とか。三島の評論にも出てくるとかなんとかアマゾンのレビューにありました。そちらは未確認です。

この作品は、「きれいで優しくて頭がよくて絶対浮気しない理想の女性」を驚異の技術力で自作したマッドサイエンティストが主人公。もうそういう女性を人為的に作り出そうというところからしてミソジニーの匂いがぷんぷんしてきますが、単なる男尊女卑に走っていないところがヴィリエのすごいところ、なのかな。あくまでも科学的視点(現代の科学からするとちょっとトンデモではありますが)から幻想的な小説を書いてやろうじゃないかというような意気込みが感じられます。この作家の存在すら知らなかった私ですが、この本を始めとするヴィリエの著作をいくつかと、仏文学者の書いた論文をいくつか読むうちにすっかり引き込まれてしまいました。これをきっかけに、フランス文学って面白いんだなって思えるようになったんですよね〜。

現在入手可能な書籍は

未来のイヴ (創元ライブラリ)

未来のイヴ (創元ライブラリ)

 

 こっちなんですが、私はあえて、全集の中の1冊を古書で購入しました。冒頭にアマゾンのリンクを貼った、第2巻です。(文庫の新品と値段があまり変わらなかったので…)

函に入ってて、重くて読むのが大変でした。でも他の作品も収録されているのでお得。

訳された斎藤磯雄先生は明治大学の教授でした。昭和50年代に出版されているにもかかわらず、こだわりの旧字体旧仮名遣い。なかなか読みづらいですが、美しい日本語も堪能できました。

 この本にも2編収録されていますが、こちらは別の先生が訳されたので現代仮名遣いで読みやすいです。

関係ないけど研究者さんたちは「リラダン」じゃなくて「ヴィリエ」って呼ぶんですよね。何か理由があったんだけど忘れちゃった。日本でのヴィリエ研究の第一人者は、今の所多分武蔵大学の木元先生です。木元先生の論文にはとてもお世話になったのですが、全文フランス語のものもあって、泣きそうでした。

木元先生、ありがとうございました。