Sea of Tranquility

しずかのうみ

フェッセンデンの宇宙

ひとまず表題作のみ。

 

フェッセンデンの宇宙 (河出文庫)

フェッセンデンの宇宙 (河出文庫)

 

私がSFを本気で読み始めた中学生の頃には既に名作と謳われていた古典です。有名すぎて読んだ気がしてたけどちゃんと読んだことはなかった。名作で古典ですが、拍子抜けするくらい短編です。

科学者フェッセンデンはものっすごく優秀な人ですが自宅に引きこもり家政婦に暇を出して大学にも出勤しない日々が続いていました。友人である語り手が、心配になって自宅を訪ねたところ、フェッセンデンは驚くべき実験を行っていたのです…。

みたいなあらすじです。

有名どころなのでネタバレもへったくれもないから書きますが、フェッセンデンは実験室の中に宇宙を再現していました。そこには恒星系があり惑星には生命や文明が生まれており、彼はちょっとした神の気分をあじわっていたわけです。もっとも神になりたかったわけではなくて、地球上では再現不可能な物理実験をやりたかったというのが本音のようで、フェッセンデンは真面目な物理学者なんだなあという印象でした。

しかし語り手に自分の作り上げた宇宙を自慢しているうちに、彼は「自分が作ったんだから何やってもいいでしょ」とばかりに、そのままにしておけば均衡の取れていた自分の宇宙に介入し始めます。その結果異文化の衝突が起きて、しなくてもよかった戦争が始まったり、隕石が落下して惑星の自然が破壊されたり。ハミルトンの描写がエモいので、つい小さな宇宙の小さな文明に感情移入してしまいました。

「高度な知性と文化を持つ生き物だから殺してはいけないのか?」「人間が自分で作ったものは自分の権利として殺していいのか?」という、倫理学のテーマちっくなことを考えさせられる短編でした。