Sea of Tranquility

しずかのうみ

逆光 <上>

図書館で借りたのですが、期限内に読み終わりませんでした…。とりあえず上巻の半分くらい。

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

 

ジャンルはなんなんでしょう。SF?なのかな?

ちょっとパラレルワールドっぽい設定で、地球空洞説が本当に実証されていたり、飛行船が主な空中移動手段になっていたりします。実在の政治家、科学者、小説家の名前もバンバン出てきますが、すんなりフィクションに溶け込んでいます。

柱に訳注が掲載されているんですが、ほぼ毎ページ書かれていて、どんだけ本筋と直接関係のない薀蓄に満ちているんだろうと感動してしまいます。登場人物がとても多くて、序盤はそれぞれの描写を別立てで行なっていて、さっきまで<不都号>(飛行船の名前)乗組員の話だったのにいきなり今は実業家ヴァイヴさんの話になっていたり、場面転換で戸惑うことが多いです。慣れてくると気にならないけど、今度は登場人物の相関関係がわからなくなってしまって、「あれ、これは誰の息子だっけ」とページを戻る始末。

でもでも、楽しいです!いや、結構グロい描写もあるし、すさんだ人たちも出てくるし、楽しいと言っていいのかわかりませんが、楽しいです。

ヴォネガットでレポート書きたいと言った私に大学の先輩が「ピンチョンあるよ」と教えてくださった意味がわかる気がします。なんというか、スラップスティックっぷりが少し似ています。

著者は応用物理工学を専攻したこともあるガチ理系で、作中にも難しい数学の理論や物理、化学の原理などがバシバシ出てきて私にはパラダイスでした。それなのに地球は空洞で、日本人は牡蠣の中で真珠を養殖して、そこに情報を埋め込んで通信に使ったりしているし、トンデモな新興宗教も出てくるし、科学と非科学のカオスです。でもとにかく情報量が多いので、読んでいてこれって嘘かなほんとかななんて咀嚼している余裕がなくなります。その読者を巻き込んでいくスピードが、快感。

最初に出てくる<不都号>乗組員は「偶然の仲間」と呼ばれているのですが(どの飛行船の乗組員たちにもそういうグループ名のようなものがつけられているもよう)、この人たちには数々のエピソードがあってその冒険記が出版されているらしく、「詳しくは『偶然の仲間と○○』を参照」とか作者が紹介する(でもピンチョンはそんな本はもちろん書いていません。作中にタイトルだけがいくつも出てきます)のも楽しい仕掛けです。

そして、ピンチョンはアメリカ史をものすごくちゃんと理解していて、時系列に従ってきっちり物語を作り込んでいて、そこに自分の作った架空のキャラクターをうまくはめ込んでいます。これは原書で読める気が全くしませんが、もしできたら相当面白いでしょうね…。

もうどこまで何を書けばネタバレになるのかわかりませんが、導入がシカゴ万博から始まって、第一次世界大戦が暗示されているので、フランツ・フェルディナントさんとか出てきます。この人、結構いい加減なキャラに描かれています。いいのかなぁ。

というわけでたいそう面白い本なので残念なのですが、本業?の自分の勉強のめどが立たないので、一旦ピンチョンは棚上げにします。

また戻ってきたら続きを書きますね。その時のことを想像するだけでワクワクします。