Sea of Tranquility

しずかのうみ

【閲覧注意】ネットの怖い話 クリーピーパスタ

夏なので怖い話が読みたくなりました。

クリーピーパスタのクリーピーは英語のcreepy。気味が悪いとか不快、みたいな意味です。creepyをcopyになぞらえ、pasteがpastaに変形されて、気味の悪い都市伝説をみんながコピペしていろんなネット上の媒体で広がっていく様を「クリーピーパスタ」という用語で表現しているというわけ、らしいです。日本だと2chのオカルト板にあった「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」というスレッドが有名かも。あれも2chを飛び出していろいろな場所に貼られていました。

アメリカのホラー、オカルト作家さんたちがプロアマ入り乱れてネット上に作品を公開していて、この本はそれらを集めたアンソロジーなのですが、編者のミスター・クリーピーパスタは怖い話専門のユーチューバーらしいです。なんかいろいろすごいですね。

ミスター・クリーピーパスタの最新の動画がこちら。ちらっと観た感じ臨場感と緊迫感たっぷりの朗読でどっちかっていうと稲川淳二的立ち位置…?


www.youtube.com

短編集をネタバレせずにレビューするのほんとに難しいので私の読後の感想だけ、例によってちゃちゃっと羅列していきますね。

這いずる深紅 マイケル・マークス/ Creeping Crimson - Michael Marks

正統派ホラーの舞台設定であれよあれよというまに悲惨な状況になっていくスピーディな作品。賢くて強い奥さんが大活躍。

おチビちゃん マックス・ロブデル / Teeny Tiny -  Max Lobdell

星新一とかが書きそう(ボリューム的にも)?しかしこの子はある程度結末が予想できた上でのあの行動だったのでは…?ある意味日本人にはちょっと書けない題材かも。

香り マイケル・ホワイトハウス / Perfume - Micheal Whitehouse

ホラー作家マイケル率高っ(二人目)。ちょっとゴシックっぽい構成で、現場の湿度や暗さ、静けさ、もちろん香りまで描写できている表現力がさすが。グラビンスキっぽさもあるかな。

図書館の地下室で ロナ・ヴァセラー / Down In The Library Basement - Rona Vaselaar

この作品が一番のお気に入り。翻訳もこなれていてお上手。後でご紹介しますが、本作の翻訳はアマチュアの翻訳勉強会のメンバーさんたちが分担で行いました。この作品の翻訳は曽根田愛子さん。ほんとうまい〜。内容も、一番面白かった!

スピリット・ボックスから聞こえる声 マイケル・マークス / Voices In The Spirit Box - Michael Marks

マイケル・マークス二作目。スピリットボックスとはなんぞや?と思いながら読みました。検索したら普通にアマゾンで売ってた。ゴーストハント用の、幽霊の声受信機みたいな?もっとオルゴールっぽい、ナチュラルテイストな箱かと思ったら意外にもハイテクでびっくり。まあここから声が聞こえるっていう話なんですけど救いがないです。

ハドリー・タウンシップに黄昏が迫るとき T.W.グリム / When Dusk Falls On Hadley Township - T.W.Grim

ストーリーは全く違うんだけど、まとった雰囲気がシャーリイ・ジャクスンの『くじ』っぽい。閉じられたコミュニティで受け継がれる忌まわしいしきたり、っていうお話。ちょっと『悪魔のいけにえ』(映画)っぽい感じもあるかも。

無名の死 アーロン・ショットウェル / They Die Nameless - Aaron Shotwell

最後まで読むと1ページ目に戻りたくなるような話。研究って因業だなあ。

感じのいい男 ウェルヘイ・プロダクションズ / The Nice Guy - Wellhey Productions

この読後感…前に読んだ『30の神品』に収録されていたジョン・コリアの「ナツメグの味」っぽい…。あと、スティーヴン・キングNight Shiftに収録されているThe Man Who Loved Flowersみたいな。

黄色いレインコート サラ・ケアンズ / The Yellow Raincoat - Sarah Cairns

色のついたレインコートっていうと映画『赤い影』を思い出してしまう。黄色の方がまだかわいいかと思ったけどそうでもなかった。翻訳がちょっと硬いかなぁ。

「うつ」は魔もの Goldc01n / Depression Is A Demon - Goldc01n

4ページ半くらいの超短編だけどいい感じに怖い。

舐める熊 マックス・ロブデル / Licks From A Bear - Max Lobdell

「おチビちゃん」の人。この人人体改造ものが好きなのかな。だんだん壊れていくの怖すぎる。

妄想患者 マット・ディマースキー / Psychosis - Matt Dymerski

精神の壊れ方が似てるから感想を書くために再読するまで「舐める熊」と中身がごっちゃになってた。人との真っ当な交流ってだいじ…。

樹の下の女 マイケル・マークス / She Beneath The Tree - Michael Marks

マークスさん3作目。これもね、めっちゃグラビンスキっぽいよね。日本の話で言うと捨てたはずの呪いの人形がいつの間にか戻ってくるみたいなやつ。

スマイル・モンタナ アーロン・ショットウェル / Smile. Montana - Aaron Shotwell

設定がちょっと伊藤計劃のアレっぽいし、「この手紙を受け取った人は100人に…」っていうやつ。

殺人者ジェフは時間厳守 ヴィンセント・V・カーヴァ / Jeff The Killer : Right On Time - Vincent V. Cava

この白いパーカーを着たティーンエイジャーの殺人鬼はクリーピーパスタ界でも有名なキャラクターっぽいですね。先を越された殺人者がびびってるところがカワイイ。

文中でも少し触れたんですが、翻訳は「自由が丘翻訳会」という翻訳勉強会のメンバーさんが担当しています。メンバーの一人で翻訳者の筆頭に書かれた倉田真木さんは講師なども務める職業翻訳家のようで、さすがにこなれた文体でした。こういう試みすごく面白いし、ネットで流布したクリーピーパスタを日本に紹介するのにふさわしい展開だなって思います。今後のご活躍をお祈りします。

めっちゃ怖かったのは何編かでしたけど、総じてよくできたホラーで読み応えがありました。まだ暑い日が続きそうですのでちょっと涼しくなりたい時におすすめです。