Sea of Tranquility

しずかのうみ

30の神品 -updated-

短編小説をいくつか読むという課題が出されました。課題は原文なのですが、邦訳があるものは先に邦訳を読んでみました。 本作は30編のショートショートが、海外ものと日本もの交互に出てきます。読んだことのある作品もあり、初めての作品もありでした。ショートショートなのでネタバレを回避しつつ感想を書いていきます。

厭な物語』でやった書誌情報追記、大変だったけどこっちもやってしまった。こんなことしてる場合じゃないのに…。

30の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)

30の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)

  • 発売日: 2016/09/29
  • メディア: 文庫
 

アルフレッド・ヒッチコック「クミン村の賢人」

The Wise Man of Kumin (1951) 訳 : 各務三郎

Coronet 30, no. 2 (June 1951) 初出。Hitchcock on Hitchcock: Volume 2 (2014)収録。

初読。中国の村にやってくるアメリカ人の話。

気の利いたオチでした。そういうこと〜!?っていう感じ。情景描写が緻密で映像を見ているようです。そりゃまあヒッチコックだからね。

訳者の各務さんはレイモンド・チャンドラーなどをよく訳されているミステリー専門の方です。


和田誠「おさる日記」(1966)

初出『話の特集』(1966)。

既読。初出が1966年だそうで、その当時の時代感が伝わってきます。近年挿絵が入った絵本になりました。しかし結末は何度読んでもヒェッてなりますね。


ヘンリー・スレッサー「最後の微笑」

The Last Smile (1961)  訳 : 山本俊子

初出はPlayboy(1961/11)。

初読だけど似たテイストの作品がありそう。誰も不幸になっていないのでいいのかも。スレッサー小泉今日子主演の映画「快盗ルビイ」の原作者でもあります。あのお話は軽妙洒脱で面白かった記憶があります。

山本俊子さんの経歴は調べたけどわからず…。1970年代から、主にハヤカワ文庫で活躍されていました。


阿刀田高「マーメイド」

書誌情報は見つかりませんでした。

初読。題名はバーの店名。こちらは割と自業自得な結末でした。


リチャード・マシスン「一年のいのち 」

Deadline (1959) 訳 : 小鷹信光

初出はRogue (1959/12)。

初読。そんなばかなと思いつつ作品世界の中ではありえるのかも…と実感が伴う結末。マシスンは映画の原作や脚本も書きます。最近のメジャーどころは『アイ・アム・レジェンド』(観てない)、古くは『激突!』。『激突!』は無名時代のスピルバーグが監督した不条理ものの古典。邦題は伊藤典夫さんが訳したものの方がネタバレなしの原題に近いもので、よかったかも。伊藤さんの訳も読んでみたくなりました。

小鷹信光さんは翻訳だけでなく自作もされるハードボイルド作家でした。『刑事コロンボ』のノヴェライゼーションを翻訳されたりもしています。


半村良「箪笥」(1974)

初出『幻想と怪奇』(1974) 。

初読。これは怖いです。わけのわからなさが怖い。山岸凉子っぽい。全編ほぼ金沢弁で風情があります。


レイ・ブラッドベリ「みずうみ」

The Lake (1944)  訳 : 伊藤典夫

初出はWeird Tales (1944/ 5)。

萩尾望都のコミカライズが初読。これを読むと萩尾望都が原作に忠実に、空気感までも再現して漫画化したことがわかります。

伊藤典夫さんは早稲田大学在学中の19歳の頃に三島由紀夫の『美しい星』を酷評し三島を怒らせたという武勇伝があるらしい…。カート・ヴォネガットの翻訳が多くあります。うちにもあるよん。


星新一「おーい でてこーい」(1961)

『人造美人』(1961) 収録。

既読。有名なやつ。久しぶりに読むとやはりパンチがきいている。


フレドリック・ブラウン「後ろで声が」

A Voice Behind Him (1947) 訳 : 中村保男

初出はMystery Book Magazine (1947/ 7)。Mostly Murder (1951)収録。

あっ、この後同じ作家の似たようなタイトルの小説を読んでしまって話が混乱してる…。

思い出しました。これは誰も幸せになれない結末。私にとっては「火星人ゴーホーム」の作者として有名(?) 初読。

中村保男さんは東大英文学科出身でチェスタトンのブラウン神父シリーズなどを翻訳されていました。


眉村卓「ピーや」(1965)

『準B級市民』(1965)に収録。

初読。途中まで読み進んで、最初の方に張ってあった伏線に気づいたり。切ない系。猫かわいい。


O・ヘンリー「賢者の贈りもの」(1905)

The Gift of the Magi (1905) 訳 : 大久保康雄

初出はThe New York Sunday World(新聞) (1905)。

既読。有名。でも本の解説にも書かれていたけど「改めて読む」と味わい深い。これは原文でも読んだことがあるけど再読したい。

訳した大久保康雄さんは慶應出身の塾員(中退)。戦後絶版になっていた『風と共に去りぬ』を復刊した功績があり、翻訳家が大学教員と兼務が多かった時代に専業で翻訳に取り組んだ先駆者だそうです。


筒井康隆「駝鳥」(1969)

初出は婦人公論(1969/4)。『欠陥大百科』(1970)収録。

えーなんか読んだことがある気がするんだけど〜。思い出せない。仕返し痛快オチ。痛快でもないか。

書誌情報を調べていたら、読んだことがあったことを明確に思い出しました!『欠陥大百科』と『乱調文学大辞典』(1975)は中学生だったけどめっちゃ読んでたわ〜。特に『乱調文学大辞典』はこの後出てくるビアスの『悪魔の辞典』に触発されてできた作品というのもあってその時に少しだけビアスも読んだ気がします。

ichizo.hatenablog.com

短編の書誌情報を探すのはとても大変でしたが著名な作家はファンがリストを作ってくれているのでなんとかなりました。こういうのを作れる人になりたい。

jun-jun1965.hatenablog.com


アンブローズ・ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」

An Occurrence at Owl Creek Bridge(1891) 訳 : 中西秀男

In the Midst of Life (1891)収録。

そんな『悪魔の辞典』しか知らなかった私ですがこの話は有名なんですね。映画化もされたらしい。初読。夢を見ていたような読後感。

中西秀男さんは早稲田大学出身の翻訳家。ビアスとかサキとかナボコフとか。


中原涼「地球嫌い」

『笑う宇宙』(1989)収録。

初読。これは途中でオチがわかってしまったが、わかった上でなおすごいと思った結末でした。


サキ「開いた窓」

The Open Window (1911) 訳 : 中村能三

The Westminster Gazette (1911/11)初出。

既読。ちゃんと決着つけてて後味が悪くない。

中村能三さんも職業翻訳家の先駆者で、児童文学からミステリーまでいろいろ翻訳をされていました。


かんべむさし「水素製造法」(1978)

『水素製造法』(1978)収録。

既読。初読のときより面白かった。

かんべむさし公式サイト


マッシモ・ボンテンペルリ「便利な治療」

原題不明。訳 : 岩崎純孝

La donna dei miei sogni e altre avventure moderne (1894)収録。

初読。翻訳の文体が格調高くて素敵。結末は元も子もない感じ。

訳者の岩崎先生は東京外大出身です。

yakkai.stars.ne.jp


都筑道夫「らんの花」(1966)

初出はサンケイスポーツ(1966/4)。

初読。途中までけっこう騙されてた。なので、オチは見事。

都筑道夫 ショートショート初出誌リスト


ジャック・リッチー「旅は道づれ」

Traveler's Check (1962) 訳 : 谷崎由依

初出はAlfred Hitchcock's Mystery Magazine (1962/12)。

初読。これは一話もののドラマにできそう。

谷崎由依さんは近畿大学文芸学部准教授。自作も翻訳もされる方です。


赤川次郎「指揮者に恋した乙女」

『散歩道―赤川次郎ショートショート王国』(1998)収録。

初読。赤川次郎自体久しぶりだったけど、こういう文体の人だったなぁって思い出した。


アイザック・アシモフ「不滅の詩人」

The Immortal Bard(1954) 訳 : 伊藤典夫

初出はUniverse (1954/ 5)。

初読。かわいそうな詩人のお話。原題を見れば詩人の素性もわかるかも。


岸田今日子「冬休みに あった人」

『ラストシーン』(1998)収録。

初読。ご本人のあの飄々とした語り口が思い出される佳作。怪作?


W・W・ジェイコブズ「猿の手

The Monkey's Paw (1902) 訳 : 平井呈一

The Lady of the Barge (1902)に収録。

既読。有名どころですね。文体は違うけど展開がスティーブン・キングっぽいしきっと引用されてるよね『ペット・セマタリー』とかに。

訳者の平井先生はラフカディオ・ハーンやブラム・ストーカーを訳されていた方です。


江坂遊「かげ草」

『仕掛け花火』(1992)収録。

初読。最後は全部出しちゃえ、みたいな。


フランク・R・ストックトン「女か虎か」

The Lady, or the Tiger? (1882) 訳 : 紀田順一郎

初出はThe Century(1882) 。

初読というか既読というか。あらすじは知っていたけど全文読んだのは初めてです。

この後日談もあって、それが読みたいばかりに別のアンソロジーを購入してしまいました。そちらに収録されている新訳の方が読みやすいかも。結末読者に丸投げリドル・ストーリー

紀田さんは塾高からの慶應経済(翻訳者の学歴を書いてどうするんだって思いつつ書いてる)。慶應義塾大学推理小説同好会に所属していたそうです。


城昌幸「ママゴト」(1958)

初出は『宝石』(1958)。

初読。なんのために…?という疑問を題名が語ってくれている、ことに読み終わってから気づく。

みすてりい


ロバート・ブロック「夫を殺してはみたものの」

Double Tragedy (1959) 訳 : 小沢瑞穂

初出はMike Shayne Mystery Magazine (1959)

初読。アメリカのTVドラマっぽい展開。ブロックは映画『サイコ』の原作者。

訳者の小沢瑞穂さんはキャリー・フィッシャーの自伝やエイミ・タンなどを訳されている、ちょっと硬派な印象の翻訳家です。


山川方夫「待っている女」(1962)

初出は『ヒッチコック・マガジン』(1962/2)。

初読。この方は大学の先輩だったのですね。恐怖物でもSFでもなく(ちょっと不思議系ではあるけど)人間ドラマっぽい。主人公の住環境がリアル。以下のリンクに全文があります。

bungeikan.jp


ジョン・コリア「ナツメグの味」

The Touch of Nutmeg Makes It (1941) 訳 :矢野浩三郎

初出はThe New Yorker (1941/5)。

初読。あるポイントから絶望のラストに向かって加速していくのが体感できる良作。

翻訳の矢野さんは英仏どちらも訳せる才人。ミステリーの人はこんなんばっかりなのか。


小松左京「牛の首」 (1965)

初出はサンケイスポーツ(1965/2)。

既読。初読のときは「はあ?!」ってなった。今回はそうでもなかったけど、やっぱり私にはこういう心の機微はわかりません。『くだんのはは』っていう短編もあります。こちらもおすすめ。

 

詳しい解説などは

www.fusosha.co.jp

 あたりをごらんください。

翻訳作品の書誌情報は

ameqlist.com

こちらのサイトにとても助けられました。