Sea of Tranquility

しずかのうみ

ダスクランズ

 地味に好きな作家。

ダスクランズ

ダスクランズ

 

 雪の中予約した本を取りに少し遠くの図書館に行った。歩いても行ける距離だけどこの雪なので無理せず電車を使ったら、早めに帰宅する人たちで大混雑。帰りは少し時間差で…と思い、新刊コーナーにあったこの本を手に取りました。

面白くてあっという間に読み進んだんだけど、雪の様子も気になってスマホをちら見しながら読んでいたら半分までのところで図書館の閉館時刻が迫ってきたので、続きは次回。

今回は前半の「ダスクランズ」まで読みました。

書き出しの翻訳がすごくかっこいい。かっこよすぎて主人公の名前だと思わずに読み進めたくらいでした。でもこれ日本語だと面白さ半減…。

ベトナム戦争を背景に、南カリフォルニアでスノッブな生活を送る主人公が冷静なまま少しずつ壊れていくので、それまでがんばって保っていたギリギリのバランスが崩れたのがどこだったのかがにわかに判別できず、まんまとクッツェーに操られた感じで読み終えました。まさにベトナム戦争真っ只中の1974年に書かれたのに、読みようによっては終わった戦争のことを諧謔たっぷりに描いたようにも思えて、気持ちよく混乱しました。

ベトナム戦争は本当に若いアメリカ人が病んだ戦争だったな…とよく知らないのに回顧してしまったり。でもクッツェーは経歴を見た感じでは、当時はもう南アフリカに帰っていたし、在米時も西海岸には住んでいなかったのに、違和感なく書き切るのはすごいなぁ。

比較的最近の作品(『動物のいのち』)は読んだんですが、クッツェーのよさ、というか特徴は、誰でも持っているような、日常生活で瑣末な事務処理に使う脳の部分と、自分自身の過去や人にはあまり見せない深いところにある思考の部分を、並列的にさらっと書いてしまうところのように、私は感じています。

今作は、論文を書くようなお仕事をしている人が読むと、なかなか興味深い構成でした。

余談ですが、主人公が住んでるあたりはうちの親戚も住んでいてついこの間遊びに行ったばかりなので、臨場感が半端なかったです。