Sea of Tranquility

しずかのうみ

誘導尋問 Indictment: The McMartin Trial

1984年にアメリカで実際に起きた事件と、6年にわたって続いた裁判の再現ドラマです。

誘導尋問 INDICTMENT [DVD]

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主演は「ヴィデオドローム」という変態映画でも主役を務めたジェームズ・ウッズ。このほかに「E.T.」でエリオットを演じたヘンリー・トーマスも、被告役で出演しています。

事件は、とある女性が「うちの子のお尻が赤く腫れていた。保育園でやられたと言っている。性的虐待ではないか」と警察に通報したところから始まります。保育園の経営者一家に家宅捜索が入り、経営者の孫であるレイモンドが主犯とされますが、なぜかその家族や保育園の関係者たち総勢5名も共犯として一緒に拘留されてしまいます。証言者は全て保育園に通う子供たちで、幼くて証言能力がないのではないかと思うような年齢の子供からも、「国際児童研究所」のセラピストを名乗る女性がパペットなどを使って巧みに証言を引き出し、次々に被害が訴えられ(件数としては最終的には300件近くまでになりました)しまいには近隣の保育園にも風評被害が及び、経営困難に陥った園が続出といった事態に発展します。

結論としては、国際児童研究所のセラピストがテレビリポーターと内通していて、扇動的な報道に都合のいいような証言を子供たちから誘導的に引き出していたこと、子供は自分に非がない時に嘘をつくはずがないという大人たちの思い込み、功を焦った検事たちの勇み足、中でも性的な事件に対して病的なまでに嫌悪感を持ち、他の可能性を一切排除して起訴立件に向けて突っ走る女性検事が、弁護側に有利な情報を意図的に渡さないなどの消極的妨害工作までして事件の真相究明を遅らせたことなどが複合的に作用した冤罪事件でした。そもそも最初に通報した母親自身、アルコール依存症統合失調症を併発していて日頃から妄想に支配されていたりしたわけで…この母親は裁判の途中で、アルコールの過剰摂取により亡くなっています。

ドラマの構成はほぼ実話に即しているので、ドラマ自体の感想というよりは事件そのものに対するコメントになりますが、第一印象としては、アメリカ人は激しい…。子供などか弱きものを虐待することに対する抵抗感がものすごく強い国民性で、その主犯の弁護などをしようものなら公衆の面前でその人物に唾を吐きかけることすら厭わない。そして、一度起訴されたら、被疑の段階でももう有罪扱いですね。アメリカ人は交通事故を起こして自分に非があるとわかっていても謝らないと聞くけど、なるほどと思える描写が続きます。

ジェームズ・ウッズ演じる弁護士が、孤立無援の状態でも決して諦めずに被告の側に立ち続ける姿勢には感じ入りました。最初はどちらかというとチャラいキャラだったし、 難しい事件をあえて引き受けて名前を売ろうみたいなことを考えていそうな印象すら持ったんですが、徐々に彼の態度も変わってきて、単なる功名心だけではなくなっていく変化がすごかったです。さすが2012年に世界で最も頭のいい10人に選ばれたジェームズ・ウッズ。(なんかIQ180とかあるらしいです)

見ていると、全くと言っていいほど物的証拠がなく、状況証拠もよく見れば被告に有利なものばかり(子供の証言をもとに現場検証をしたら、子供が連れ込まれたというクローゼットがなかったとか)なのによくここまで強行的に被告を拘留し続けたなあ、と思いましたが、日本でも捜査が公開されているわけではないし、当事者にだって途中経過は知らされていないでしょうから、こういうことは普通にありえると思うと戦慄します。

このドラマのメインは、日本語タイトルにもあるような、誘導尋問です。実際はパペットを操る優しいお姉さんと楽しくお話しするという場面なので尋問というほど剣呑なものではないんですが、他に適切な日本語も思いつかないですね。

パペットを操る優しいお姉さんはまず児童虐待というストーリーありきで、子供が「そんなことされてない」「そこには行ってない」と言うと「そんなことないでしょう〜?よーく思い出してみて〜」と否定したり「そんなことも覚えてないなんて君はバカだね(パペットのセリフとして)」と煽ったりして、子供たちに「虐待を受けた」という嘘の記憶を植えつけるのですが、意外と人間の記憶というのは曖昧で、後から付け足された情報によって操作されることは認知心理学の観点から研究されたデータがあり、大人であってもこういうことは起こりうるわけです。

事件事故に関係した時、無実の人を犯人にしてしまわないような証言ができるのか?自分が犯人にされてしまわないようには?

難しい現実を突きつけてくるドラマでした。