もう一つのブログに書きたい内容なのですが、ちと差し障りがあるためこちらで…。
正しい文学少女ではなく、SFや怪奇ものばかり読んでいましたので、こんな有名な作品もここへきて初めて読みましたし、作家のこともまったく知りませんでした。英文学というものは、「本を読むのが好きで少々英語を嗜むお嬢様が大学受験の際に選ぶ無難な学問」くらいの、それこそ偏見を持っていましたので、英文学研究はハードワークだというのもつい最近知ったくらいです。
20代のオースティンが書いた小説が、ここまで長く読まれていろいろな言語に翻訳されたり映画化されたりして、人々に親しまれているというのは、月並みな表現ではありますが、すごいことですね…。しかも彼女は高等教育も受けていなかったんですよね。
(おっと。「オースティン」なんて馴れ馴れしく呼んだら怒られちゃうんですよね。詳しくは後述する本でご紹介します)
時代も時代ですし、そもそもこの本を知った経緯からして、堅苦しくて読むのが苦痛なのではと恐る恐るページをめくりましたが…。
なにこれ面白い!
内容は言ってしまえば恋愛ものなんですが、若い著者(この呼び方が無難らしい)の観察眼が鋭くて、人物描写のヴァリエーションが豊富。主人公の内面で起こる葛藤が生き生きと描かれていてめっちゃ感情移入してしまいます。
ちょっと変わり者のパパと、下世話で世俗的なママと、物事を深く考えない刹那的な妹3と、その妹3に振り回されてふわふわしている自分があまりない妹2と、物事を深く考えすぎて本ばっかり読んでる妹1と、根っからの善人で人を疑うことをしないお姉ちゃん1に囲まれたお姉ちゃん2(エリザベス・ベネット)が、人生を変えてしまう一大イベントに遭遇して成長するという、まあこれ解説に書いてあったんですけど、ビルドゥングス・ロマンというやつでしょうか。でも決してお説教くさい展開ではなく、エリザベスが自分の身の回りで起こる事件を体験しながら、今まで持っていた偏見を克服して大きく成長するという、読み終わって本当にすかっとするお話でした。すっごく面白かった。読んでよかった。
この時代にエリザベスみたいな性格で生まれると苦労するだろうなーと思いながら読み始めましたが、ステレオタイプなお嬢様ではお話にならないわけで、現代人としてもはらはらしながらエリザベスの言動を見守りました。エリザベスが自分の偏見に気づいて反省して変わろうとするところはカタルシスが得られましたね。ちなみにタイトルにある「高慢」の方も登場人物の気質に関する表現、だと思います。それだけじゃないかもしれませんが。
翻訳は小尾芙佐さん。SFやミステリを多く翻訳されてきた方で、SF好きだった私は何冊か小尾さんが訳された本を読んだこともありました。憧れの翻訳家さん。小尾さんは津田塾出身なので、オースティン研究で、日本で初めて女性で文学博士号を取った近藤いね子先生に教えていただいたことがあったとか。でも、小尾さん自身も大学の講義では近藤先生から課される課題をこなすのが精一杯で、この作品の真価を理解するところまではいかずもったいないことをしたと書かれていました。
オースティンもっと評価されるべき、と思っていたら、ちょっと視野を広げたら普通に評価されていました。その件はまた次のエントリで。あっまたオースティンって呼んでしまった。
というのもこの本も一緒に読んだからなのですが
ジェイン・オースティンのマナー教本―お世辞とシャレード、そして恐るべき失態
- 作者: ジョゼフィーンロス,ヘンリエッタウェッブ,Josephine Ross,Henrietta Webb,村瀬順子
- 出版社/メーカー: 英宝社
- 発売日: 2014/08
- メディア: 単行本
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ジェイン・オースティンが、小説を手がけようとする姪のアナと交わした書簡や、オースティン自身の著作から引用しつつ、18〜19世紀当時のイギリス中流社会におけるマナーについてまとめられた本です。
『高慢と偏見』でも描かれていた社交のマナーが解説されていて、これを読むと「なるほど、だからみんな訪問のタイミングや順番にこだわっていたのだな」と納得できます。なお私がオースティン呼びをすると怒られると言っていた理由もこの本に書かれています。名字だけで人を呼ぶことは、その人の階級や立場によっては失礼なことだったのです。同じ家の姉妹でも呼ばれ方は異なっていて、例えばベネット家では「ミス・ベネット」と呼ばれていいのは長女のジェインだけで、後の妹たちは名前を付して「ミス・エリザベス・ベネット」などと呼ばれなければならないとか、婚約するまでは相手を名前では呼ばないとか、結婚した後も自分の夫を「ミスター・(姓)」で呼んでいたご婦人がいたとか、なかなか興味深い内容でした。
折しも今年はオースティン没後200年。イギリスではいろいろなイベントが企画されているようですよ。