Sea of Tranquility

しずかのうみ

おろち

このブログ

ninjago.blog.jpを読んでしまったおかげで久しぶりに漫画を一気読みしました。

とはいえさすがに

…はちょっとヘヴィすぎるので、中学生くらいに愛読していた

こちらを再読ということで。

愛読していたはずですが細かい部分はよく覚えていなかったですね。『おろち』は好きだったけどたぶん

こちらの方がインパクトが強かったのではないでしょうか。絵柄もシンプルでかわいいんですよね…。「雪女」なんかは古典を踏襲しつつ独自の新展開で。でも今日は『おろち』!

タイトルロールの「おろち」は不老不死の女の子。たぶん10代後半〜20代前半くらいじゃないかな。ちょっとした超能力と、他人へのゲスい関心を持っていて興味本位に人の人生に介入しまくります。おろちのせいで知らなくてもよかった秘密を知ってしまうとか、おろちが人助けのために何かしようとしても効果がなくて結局人間関係が壊れていくとか、全体的に救いはないです。1969年から70年にかけて「週刊少年サンデー」に連載されていたようですが、この密度みっちりなストーリーを週刊連載していたとかほんとすごいです。

では1話ずつ感想を。文庫版の収録順です。

  • 姉妹

とあるお家事情を隠していたばかりに生まれる悲劇で、そもそもの設定が科学的にありえないんですが「ロシア人の女の子も若い頃はかわいいのに年をとると醜く太ってしまって云々」みたいな話と同じ扱いにされていて、それはちょっと(笑)もうこれは最後のどんでん返しをやりたくて組み立てた話なんじゃないかなあ。それでも「耐え難いと思われるような運命でも自棄にならずに真摯に受け止めて真面目に生きる」ことの大切さを教えてくれる作品ですね…昭和の時代はこういう「中の生活が庶民には全く想像できない超お金持ち」みたいな人たちの姿をデフォルメして盛り上げようとしたストーリーが多かった気がします。そんなに深刻なお家事情を抱えているお宅ばかりではなかったと思うんですけど。

おろちが余計なお世話で死者を蘇らせ登場人物全員が不幸になる救いのない話。しかも復讐譚です。蘇った当事者は自分の恨みを晴らしましたけどそれで助かるわけでもなくてほんとに救いがない。ていうかおろちは余計なことを一つのみならず二つもやらかすのだからほんと人の生活に介入するのはやめた方がいい。でもそれをやってくれるせいで我々は醜い人間ドラマを見ることができるわけなので…(とか言ってる時点で楳図先生の掌の上にいる私たち)

  • 秀才

K大ってどこやろ。京大か九大か慶應か。これもある意味復讐譚ですね。しかも双方向の。人間の業と闇の深さに感じ入る展開なんですけど、そこにエネルギー使わなくてよくない?なんでみんな幸せになる方向にがんばらないのかな。ちょっとした一言を素直に表現するだけでずっと生きやすくなるはずなのにぃぃ。まあでもこの話はなんとなく先に救済があるような終わり方になっています。ここではJKに扮して高校に潜り込むセーラー服コスのおろちが堪能できますね。

  • ふるさと

全体的にすごく怖い話でした。なんだか『光る眼』っぽい〜。残酷な子供は本当に怖い。大筋のストーリーの中に奇妙なエピソードが挿入された入れ子構造のようになっているので、読み終わった後もなんだか狐につままれたような感覚が残る秀作です。うまく作ればアメリカの正統派ホラー映画になりそうな展開でした。

  • カギ

誰もとりたてて悪い人がいないのに無駄にサスペンスになってしまっている例。オチで無理やり「○○したも同然だ」みたいに結論づけていますが、それはちょっとかわいそうだったのでは。でも緊迫感がすごい!このエピソードはおすすめですよ。

  • ステージ

このシリーズに多出する復讐譚のひとつですが、これだけの長い年月を復讐だけに費やすってすごい執念ですよね。この話はうっすら記憶にありました。法できっちり裁くことができないと、こういうことになってしまって登場人物全員の人生を狂わせるんですね。こんなに一つのことをやり抜く才能があるならもっと他のことで成功したんじゃないかという気もしますがそれではお話にならないので…。

  • 戦闘

連載当時はまだ戦争体験者も多く普通に生活している時代だったので、今読むよりもずっとリアリティがあったんだろうなと思います。謎の傷痍軍人によって自分の父親がかつて犯した罪を知らされ苦悩する少年が主人公で、おろちはたいした役には立っていません。読者に父親の記憶を見せる媒体くらいにしかならない。おろちなしでも成立するすごくシリアスなストーリーでした。自分が生き残るために死んだ戦友の肉を食べることは許されるのか。死にそうに衰弱していたら殺してまで食べていいのか。極限状態においてどこまで利己的になれるかという哲学的な問いについて、じゃっかん無理やり気味に設定された雪山登山という場面の中で少年がものすごくいろいろ考えて一つのふんわりした結論にたどりつきそうになるところで終わります。回想シーン、戦時中の極限状態の描写に鬼気迫るものがありました。

全盲の女の子が事件に巻き込まれ、暗闇の中一人で戦う『暗くなるまで待って』なお話。これもコマ割りとかネームが秀逸で、読んでいてどきどきはらはらする展開でした。最後「町ぐるみで悪事を隠蔽していた」的な大きな話になる絶望感も重いです。

ひとつめエピソードがお金持ちの家に生まれた美人姉妹の残酷な運命を描くものでしたが、最後を飾るのも、別の家ではありますがやはり姉妹ものでした。これ連載順なのかな。(調べればわかるけど今はいいや)「姉妹」と比べるとそこまでスーパーナチュラル感はなく、お金があっても親の育て方って大事だなあという庶民並みの感想を抱くような内容です。最後におねえちゃんのエゴが炸裂するのは割と同じ流れでしたね。ここでのおろちは自分が好むと好まざるとに関わらず愛憎劇に巻き込まれていき、傍観者ではいられません。楳図先生は女の怖さを描きたかったのかな。この後は姉妹ではなくて母娘で同じようなことやってますしね。

 

久しぶりにまとまった量の漫画を読みましたが、昔の漫画は描き込みもストーリー展開も濃いのでどっと疲れました。そしてやはり楳図先生はすごい方だった。

傍観者であり、とはいえ結局巻き込まれてしまうおろちの立ち位置が『家族八景

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 の火田七瀬を彷彿とさせるんですが、筒井先生も『おろち』読んだのかな。(発表はこちらが後なので)

謎のお手伝いさん(おろちは最初はそのテイで振舞っていたとはいえ実際にお手伝いさんをやったことはないのですが)ポジションいいですよね、メリー・ポピンズとか。ちょっと違うか。