狂気の巡礼
ホラー小説です。
作者のグラビンスキは最近になって、ポーランドのポー、ポーランドのラヴクラフト、といううたい文句で知られるようになりました。そう言っていいのかどうかわからないけど、と翻訳者の芝田さんはおっしゃっていましたが、それで知名度が上がったのでよしとするそうです。『動きの悪魔』が本当に面白かったのでこれもぜひ読みたいと思っていました。
読んだのは昨年の12月でしたが、ここにレビューを書く前にツイートして気が済んでしまっていました。ツイートは流れてしまうのでここにまとめておきます。夜、ベッドの中で一編ずつ読んで忘れないうちに感想をツイートしていました。ツイッターなので短い一言感想だと思っていたけど、まとめてみるとそれなりの量になってますね。
『薔薇の丘にて』
「薔薇の丘にて」
冒頭に引用された一節からなんとなく結末が見えてはいたけどそこに至る情景がただただ美しい。
「狂気の農園」
(身も蓋もない感想) 相談者「この家に引っ越してきてから父の様子がおかしいんです」霊能者「この家は家相も方角も最悪ですからね」みたいなやりとりがずっと脳内リピートしていた。植物のからみ?がやけにエロくてぐろい。
「接線に沿って」
Vladek はわかったけど医学生の名前の綴りがわからなーい。ドイツ語で出てきた通りの名前もドイツ語表記できなかった…。これかな?と思う単語はあったんだけど発音が違うし…。 この作品を原語で読めるなんて芝田さんがうらやましい。(通りの名前はあとで教えていただきました)
「斜視」
なんか、怖かったなあ。結局意味がわからなかったけどそういうものなのかな。『怪奇大作戦』っぽい感じというか(どんな感じだ)
「影」
美しい詩のような一編でした。森の中の湿度や気温まで伝わってくるような。その割にオチが世俗的。そしてラストは謎。
「海辺の別荘にて」
これは前半部分で一番好きかも。突然"テレパシーは存在する"という大前提で展開するくだりもSFじみていて素敵。この別荘に滞在してみたくなるような精密な情景描写。結末は悲しい。赤い音声。クセノミミア。八目鰻。登場しない人物の存在感。
『狂気の巡礼』
「灰色の部屋」
部屋の備品や家具の配置に意味があるシリーズ第2弾。Kazimierzさんがだんだん形を失っていく様はシュルレアリスムの絵画を見ているようでした。うまいこと逃げたので、ハッピーエンドかな?
「夜の宿り」
わんこが死んじゃう話はダメです(;´༎ຶД༎ຶ`) 主人公と一緒に暗闇の中を歩いているような気分にすらさせられる的確な描写力すごい。ていうかこの次の話もそうなんだけど、グラビンスキは女性の登場人物の造形にあまり手間をかけない人なんですかね?
「兆し」
ポーランド人はトルコのタペストリーが大好きなのか?状況もオチも違うんだけどなんとなく『牡丹灯籠』を思い出した一編。
「チェラヴァの問題」
ヨーロッパの建物って、内側からも鍵がないと開かないよね、なんてことを考えながら読んだ。魅力的なプロット。クローネンバーグの『戦慄の絆』っぽい。
「サトゥルニン・セクトル」
最初に出てきた時のサートゥルヌスのキャラクターがかわいい…高階良子の漫画を思い出しちゃったけど。狂気の描写が散文っぽくて、おかしくなっててもかっこいい。
「大鴉」
特別なお墓の話。描写が詩的すぎて自分の読みに自信がないんだけどこの主人公は絵姿の美女に懸想してたってことなのかな?冒頭2ページくらいは旋律をつければそのまま歌曲になりそうなくらいに美しい文章(でも歌うならポーランド語がいいな)。
「煙の集落」
舞台が欧州じゃないだけでこれだけ雰囲気ががらっと変わるのは著者(と訳者)の筆力ゆえかと思うんだけどピューマに出会ってからは言語オタクホイホイの様相。そしてクライマックスは60年代アメリカのホラー映画調。こういう非生物に殺されるシークエンスあるある。
「領域」
「薔薇の丘」同様建物主人公?の最終編。別荘に浮かぶ顔、最初は怖かったけど全部の窓が埋まるに至ってホーンテッドマンションみたいになって和んでしまった。建物に取り込まれていくさまは『シャイニング』っぽい。でもせっかく生まれた異形も消えちゃうのか…。