Sea of Tranquility

しずかのうみ

夜の蝉

話に連続性はありませんがシリーズ物ということと、隙間時間に少しずつ読んでも1日で読めてしまうことがわかったので一気に読み進めています。

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 

 一気に読み進んだ、この後に続くお話が割と「強かった」のでこの短編集については一所懸命に思い出しながら書くことになりそうです。この本は割と恋愛がテーマ。

  1. 朧夜の底
    高校生のほとんどを書店のバイトで費やし日々のお小遣いを得ていた私には懐かしい背景でした。紙のブックカバーを本の判型ごとに折るところから始めて、お店の書棚の構成とか在庫の場所を把握してお客様から何か訊かれた時にだいたい自分の判断でご案内できるようになって、取次に注文を出せるようになって、スリップの処理がきっちりできて伝票が書けるようになるとバイトとしてはだいたい一人前です。ブックカバーは小さくても大きくても折りづらくて、文庫も菊判の分厚い本も苦手でした。新書が一番折りやすくて掛けやすいのです。うまく嵌まるとすごく気持ちが良かったです。本屋さんのアルバイトは、新刊のお知らせが早くわかるのでラッキーって思っていました。そこはタバコも売っているお店で、レジの後ろ側にはお店の外からタバコを買えるように小さな窓がついていたので、冬は足下が冷えて困りました。でもそのおかげで吸いもしないタバコの銘柄に詳しくなりました。タバコは臭いが苦手で吸っている人からもなるべく遠ざかりたいものではありますが、箱の意匠とネーミングの妙に惹かれるところはありますね。和名のついた昔のタバコが好きです。わかばとかしんせいとか。ところで正ちゃんの誕生日は結局いつだったのか?
  2. 六月の花嫁
    種明かしが終わってみれば割と素直な三題噺。題名にもヒントがあるし。秋の避暑地で大学生があんなことやこんなことをするとんでもないお話(誇張)でしたが、それにしてもほぼ密室で新たな登場人物もないところで謎解きが必要な事態が起きるというのはやっぱりちょっと強引な気もするんですよね。特に今回は偶然の要素も大きくて、そこを円紫さんがすんなり解いてしまうのはなんだかなぁ。
  3. 夜の蝉
    私にも妹がいるんですけど、こういう感情を抱いたことはなかったですね。美人で優秀な姉ではなかったからか。総じて後から生まれた方が人づきあいの要領がいいので、妹はさしたる苦労もせずに大人になったんだろうなと思っていますが、妹は妹でいろいろ大変だったのかもしれないなあ、なんて考えながら読みました。それにしても女の子の一途な思いは怖いですねえ。それが純粋であろうが不純であろうが。いや、一途な思いに純も不純もないですけど。蝉は存在感が半端ないので部屋に入ってきたら虫の好きな私でも狼狽えそうです。ベートーヴェンの5番の演奏時間がどんどん短くなっているみたいなエピソードが挿入されていますが、私の認識では(冒頭だけかもしれないけど)重くて遅いのがスタンダードと思っていたので少し意外でした。以前書いたエントリの、「あえて速く演奏しました!」をアピールする指揮者さんのことを思い出しながら。

こんなハイスピードで本を読むのが久しぶりなので、読み落としがないかどうか時々戻って確認したりしています。日本文学に興味が湧いてきたりして、まだ学生生活が一年以上残っているから何か履修しようかなあという気分にもなっていますが、どうなることやら。うちの大学の国語学折口信夫先生のテキストなんですけど、あれが読めればなんだかかっこいいかもしれない…(不純)。