「円紫さんと私」シリーズ最終巻です。
主人公ちゃんはすっかり大人になって、中学生のお子さんもいます。ご主人誰なんでしょうね。ベルリオーズ?そこは何も触れてなかったんですよね。
出版社勤務は続けていて、働きながらの子育て、ご主人の協力があってもなかなか大変というような描写もありました。
花火
主人公ちゃん、所用で赴いた新潮社でいきなり「三島由紀夫が江戸川乱歩や芥川比呂志と対談した時の書き起こしにミスがある」とか言い出します。もとはといえば卒論で芥川を取り上げた彼女が『舞踏会』を読んだ時のことを想起したわけですが、それにしっかりつきあう新潮社の人もさすがですね。それでまあもっぱらピエール・ロチの話に始まり、『舞踏会』の内容に踏み込み、表題の太宰を少しかすってこの章では三島に着地しました。私はこの、三島、乱歩、芥川比呂志らの座談会が読みたい!ちょっと探してみようかな。
たぶんこれに収録されているんですよね。うふふ。
女生徒
大学時代の仲良し、国語の先生になった正ちゃんを訪ねた主人公ちゃんは、正ちゃんから太宰治の『女生徒』を勧められます。
これはねぇ!国文専攻の友達がツイッターのbioかどっかに書いてたんだよね、最後のくだりを。それがかっこよくて。引用は後でね。
『女生徒』は太宰治が有明淑という女性の日記を、ほぼ原文に忠実に少し翻案した作品なのですね。主人公ちゃんは、有明淑オリジナルと太宰の文章を見比べて、一つの謎に行き当たります。そして例によって文芸春秋社の社員さんや遠く離れた徳田秋聲記念館の学芸員さんまで巻き込んで、「学術的探索って、すごい!」と思うところまで。
有明淑さんは瑞々しい感性が素晴らしいのですが、太宰の翻案がまた味があっていいですねえ。
太宰治の辞書
それでやっと表題作。そしてやっと円紫さんが出てきます。辞書は円紫さんから出されたお題でした。最後は前橋に行って萩原朔太郎にも少し触れながら、太宰治の辞書に関する一考察を展開して終了です。まあこの本自体は今までの「女子大生」という身分から「出版社の社員」に格上げになった主人公ちゃんが、ある意味職権を駆使して、円紫さんからのヒントももらわずに謎に挑むという点では成長を感じましたが、ほとんど作者の趣味だなぁ( しかも高尚な)という印象が残りました。円紫さんとの掛け合い?が楽しみだった読者には少し肩透かしだったかもしれません。
おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?もう、ふたたびお目にかかりません。
白い朝
こちらは番外編。言及はされていませんが、円紫さんの中学生時代が垣間見られるちょっとくすぐったい初恋のお話でした。
久しぶりにシリーズ物の一気読みをして、哲学ではない文章を読んで、楽しかったあ。そして、せっかく文学部なのでもう少し小説をちゃんと読もうって思いました。まだ来年も大学生ができそうですしね。