Sea of Tranquility

しずかのうみ

由宇子の天秤

ひょんなことから観てきました。最近ひょんなことから映画を観に行くことが多いですね。

bitters.co.jp

あらすじはこんな感じです。

3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子は、テレビ局の方針と対立を繰返しながらも事件の真相に迫りつつあった。そんな時、学習塾を経営する父から思いもよらぬ〝衝撃の事実〞を聞かされる。大切なものを守りたい、しかしそれは同時に自分の「正義」を揺るがすことになるー。果たして「〝正しさ〞とは何なのか?」。常に真実を明らかにしたいという信念に突き動かされてきた由宇子は、究極の選択を迫られる…ドキュメンタリーディレクターとしての自分と、一人の人間としての自分。その狭間で激しく揺れ動き、迷い苦しみながらもドキュメンタリーを世に送り出すべく突き進む由宇子。彼女を最後に待ち受けていたものとはー?

「衝撃の事実」とか「最後に待ち受けていたもの」があるような映画なので極力ネタバレしないようにレビューしたいんですが、まあまあ難しいので未見の方はこのブログを読まないことをお勧めします。

私が事前に持っていた情報も、今年の邦画ではかなり出来がいいらしいとか、どうも劇伴がついていないらしいとか、パンフレットは買った方がいいらしいとか、そのくらいでした。

観賞後の感想としては

・ベタな邦画群の中では傑出している。それは確か。まあでも監督のこだわりがよくも悪くも炸裂しちゃったなという感じ。ファンタジーではないならもう少し現実感を出して欲しいなと思った箇所がいくつかあった。

・劇伴本当になかった。唯一楽器が演奏されるシーンで音が鳴るくらいで、本当にこの映画のためにつけられた「映画音楽」というようなものは全くなし。エンドタイトルクレジットも無音。邦画では珍しいかな。

・パンフレットは、最後に仕掛けがあるって聞いて楽しみにしていたけど、そこまで大掛かりな仕掛けではない。期待し過ぎた。ただ記事は充実していて読み応えありで、お値段もそんなに高くないので買って正解でした。

では内容にコメントしていきますね。

由宇子はドキュメンタリー監督として、事実に対してあくまでもフラットであろうとする。確かに彼女は客観的な視点を確保しようとしているように見える。しかしドキュメンタリー制作の中で他人と関わるほどに、実はその客観性はうわっつらなものだったんじゃないのか?と疑問を抱くような衝撃を何度も食らう。本人はあまり表情に出さないので食らっている自覚があるのかどうかこちらからは測りかねるところもあるけど…。内心めっちゃ動揺しているのかもしれないけど、彼女は基本飄々としている。主人公として由宇子の思考や選択を共有できているような実感はほぼない。尤も彼女自身もブレまくるのでその度に観客の視点も揺らぐんだけど。

公正であろうとする、多様な視点を持つ天秤の支柱はそれがゆえに何かが載っかってくるたびにぐらぐらと揺れるんだなあ、と思いながらこの茶番を見ていた。

そうなんだよねえ。この話は壮大な茶番なのだ。親の因果が子に報い、みたいなやつなのだ。ちょっと穿ったフェミっぽい見方をすると、こんな時に割りを食うのってやっぱりいつも女性だなあ…なのだ。なので私は「これ、女性監督が撮ったら全然違う話になるんだろうなあ」という感想も抱きました。「男目線で描いた女性クリエイターの葛藤と苦悩」みたいな感じですね。

長尺で骨太な映画で見応えはありました。友達にお勧めするかしないかと言われたらします。見終わってからいろいろトークしてみたくなるような映画かな。

で、私が不満に思ったところ。

萌は滞納してガスも止まってる家にいてなんであんなに小綺麗にしていられるんだ?髪のコンディションよすぎ。

どうも妊娠6週目から胎児のDNA鑑定ができるらしいんだけど、誰もそれをやろうとしないところに違和感。堕胎も薬を使おうとするし、科学の力をもっと使えよ!とイライラしてしまう。萌の心身がどうのとか言い訳して、劇中他の登場人物からキャラのブレを指摘されていたから「由宇子の天秤がぐらぐらしている」という点で整合性はとれてたのかもしれないけど、結局そのぐらぐらに本人は無自覚だし、「それでも話は動く」わけだからせっかくのエピソードが浮きまくってもったいない。

よかったところ。

由宇子がとにかくよく食べる。なんでも食べる。しかも相手とシェアしようとする。萌からうまい棒?をもらったり、長谷部氏からことづかったパンをもらったり、おじやを作って萌とシェアしたり、食べてばかりいてそこがよい。食べることによって相手との距離を縮めていこうというスタイルなのかな。なんか、人類学者とかがフィールドワークで研究対象の原住民族と交流しようとする手法のようで説得力があった。

丘みつ子さんの抑え目ながら空気感を作り上げる演技がよかったです。

なんかまとまってないから編集するかも。