Sea of Tranquility

しずかのうみ

オールド

M・ナイト・シャマラン監督の新作です。

本作とは直接関係ないけど、私は『シックス・センス』の結末で特に驚かなかったのでこの監督の作風は別にどんでん返しではないよね、と思っています。他の作品ちゃんと見てないんですけど、家族愛とか友情とか、そういうものをスリラーっぽく味つけする人なのかな?という印象を持つことが多いです。本作もそういうテイストでした。

old-movie.jp

一応ネタバレほんのりアリでいきます。

 

とはいえ、もういきなりポスターに書いてあるから誰でもわかると思いますが、「大人が一日滞在すると寿命を迎えてしまうビーチ」が舞台です。実際にはだいたい30分で1年が過ぎる計算でした。丸一日いると50年分老化/成長します。

公式サイトからリンクされている考察はどれもミスリードを誘うものなので読まない方がいいかも。「時間」の問題といえば時間の問題ではあるんだけど、実際には影響を受けるのは「時空間」というより「生体」だと思われます。というか非生物がどういう影響を受けるのかは示されなかったんだよね。みんなスマホがどう動いていたかとか気にならなかったのかな。電波が受信できない!終了!で誰一人としてスマホの(特に時計関連の)機能に着目した人はいなかったような気がする。

老化を早めているのはビーチを囲むようにそびえる謎の岩石に含まれる何らかの成分によるもののようで、その岩石の影響が及ぶ範囲から元の世界?に戻ろうとすると体にまるで深海から海上に出るときのような負荷がかかって気絶してしまい進むことができない、というのがこの「ビーチという密室」のミソな部分です。「境界」を越えようとすると体が負荷に耐えられず昏倒するため、普通に歩いて出ることもできないわけです。崖を登ったり泳いだりして強行的に脱出を試みた人たちは、危険な場所で気を失ってしまうため全員志半ばで命を落としていきました。

その中でなぜか家族の絆が深まったり、自分が抱えていた弱さや悩みが露見したりするという、舞台装置の異常さが人間ドラマを深めるような構想でした。それは成功していたかな、と思います。

(特にビーチに置き去りにされる)俳優さんたちが、コテコテのハリウッド俳優ではないところがよかった。対するホテルスタッフたちはけっこうキラキラしたメンバーが揃っています。大きな目が印象的なMadridという名前の女性スタッフはクリント・イーストウッドのお嬢さんらしい。この人存在感だけはあったな…。もっと活躍させてあげたかった。

謎は謎のままで終わってもよかった気がして、ラストの「説明」はちょっと蛇足だったかなと思ったんだけど、そこでも友情を描こうとしているプロットがあったからまああれはあれでよかったのでしょう。

しかしあれだけの人命を犠牲にして得たものが「年単位で効く抗てんかん薬」ってさぁ…。そりゃ確かに「一度飲んだら何年でも効く」って大きいよねって思うんだけど、それって製薬会社の利益になるの?(笑)

あと、特定の精神疾患に対して偏見を助長しないかな?という危惧もちらっとありました。『ルックバック』が噴き上がった日本でこの作品を無批判に受け入れていいのか?アメリカではこういう議論はしないのか?まあ確かに日常生活では抑制が効いても閉鎖空間では難しいのかもしれないし、誰もそんな実験はしたことないのかもしれないけどさ。

ホラー要素はほぼないんですけど、クリスタルさんの最期はちょっとかわいそうな特撮だったかな…。私だったら撮り直してほしいくらい。

パパさんの仕事はアクチュアリーなんだけど、字幕でも日本語ウィキでも言及なし。「アクチュアリー」という職域が日本ではまだメジャーではないということなんでしょうね。シナリオ的にはアクチュアリー仕草をけっこう面白おかしく描写していて楽しいです。

この人の映画観るたびに「M・ナイト・シャマランのMってなんだろう…」と思うんですけど、それ以上にこの人の顔を見ていると若い頃のジェフ・ゴールドブラムに似てるなあって思いますね。ハエ男リメイク作らないかな。

(Mの謎はウィキ英語版を見るとわかるしそんなにたいした謎ではないです)

それにしても、怪しい場所に足を踏み入れてしまったら、そこの植生とか生物とか見るの大事だなってしみじみ思いました。